債権者が勤務先を知らなくても、給料差し押さえ回避はできない!差し押さえを回避する方法は?

債権者が勤務先(会社)を知らなくても、給料差し押さえ回避はできない!差し押さえを回避する方法は?

目次

債権者が給与差し押さえを行うには、債務者の職場情報を事前に把握する必要があります。借入をする際、債務者は現在の職場を債権者に申告するのが基本ですが、契約後に転職して勤務先が変更されることもあるでしょう。こうした場合、「職場がわからなければ給与差し押さえされないのでは?」と考える人もいるかもしれません。しかし、職場がわからない場合でも、給与差し押さえを避けることはできません。

給与差し押さえに進展すると、債権者は「財産開示手続き」を行い、その際には裁判所に出向く必要があります。この手続きで、差し押さえ対象の財産を明確にするために、債務者は現在の職場情報を申告しなければならないのです。また、職場が不明な場合、債権者は銀行や市区町村などの第三者から職場情報を得る手続きを取ることができます。これを「第三者からの情報取得手続き」と呼び、この手続きを経て職場が判明することになります。

つまり、現時点で職場が不明であっても、最終的には債権者に職場が知られる可能性が高いと言えます。この記事では、職場がわからない場合でも給与差し押さえから逃れるのが難しい理由を詳しく解説し、給与差し押さえが及ぼす職場や家族への影響、そして回避方法についても紹介しますので、参考にしてみてください。

職場を知らないので給料差し押さえられない?

債務者の財産がどこにあるか分からなければ、差し押さえを行うことはできません。そのため、職場がわからなければ給料差し押さえを免れると考えることもあるかもしれません。しかし、給料差し押さえが行われる場合、基本的には債権者に職場が知られることになります。その理由は以下の通りです。

  • 契約時に勤務先を申告しているため
  • 財産開示手続きで職場情報を申告する必要があるため
  • 第三者からの情報取得手続きにより職場が調査されるため

これらの理由から、債権者が「職場がわからない」といった状況になることはありません。たとえ「契約後に転職し、新しい職場を申告していない」という場合でも、原則として給料差し押さえを回避することはできません。ここでは、職場が不明な場合でも原則として給料差し押さえから逃れられない理由を順に解説していきます。

契約時に勤務先(会社)を申告しているため

まず、金融機関から借入を行う場合、契約書を作成する必要があります。契約書作成時には、申込者からさまざまな情報を申告することが求められ、その中には職場の情報も含まれます。したがって、契約時から転職していない限り、債権者はあなたの職場を把握しており、給料差し押さえが可能です。

財産開示手続きにより職場の申告が必要だから

職場が不明な場合でも、給料差し押さえから基本的に逃れられない理由の一つは、財産開示手続きが取られた際に、自身で職場を申告しなければならないことです。財産開示手続きとは、債権者が債務者の財産に関する情報を取得するための手続きであり、この手続きが行われると、「財産開示期日」という日時に裁判所に出向かなければなりません。その際、債務者は職場情報を自分で申告する義務があります。

そのため、たとえ現在「職場がわからない」としても、財産開示手続きが行われると、最終的に職場が知られてしまうことになります。職場が不明な場合でも、債権者は財産開示手続きを行う可能性が高いため、「現在の職場を申告していないから大丈夫」と考えるのは危険です。

さらに、改正民事執行法では、財産開示期日に出頭しない債務者に対して罰則が科されることがあります。具体的には、「出頭しない場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という罰則が定められています。職場が不明だからと言って、債権者や裁判所からの通達を無視すると、懲役や罰金を科される可能性があるため、早めの対応を取ることが重要です。

財産開示手続きと第三者からの情報取得手続きで職場が調査されるから

職場が不明な場合、債権者は「第三者からの情報取得手続」を取ることができます。この手続きは、債務者の財産に関する情報を第三者から提供してもらうためのものです。裁判所の公式サイトにも記載されていますが、債権者は第三者を通じて以下のような財産に関する情報を入手できます。

  • 給与(勤務先)に関する情報
  • 不動産に関する情報
  • 預貯金に関する情報

参照元:裁判所「第三者からの情報取得手続を利用する方へ」

給料に関しては、市区町村や日本年金機構など、厚生年金を取り扱う団体から債権者が職場情報を得ることができます。したがって、第三者からの情報取得手続が行われれば、現在の職場が必ず債権者に知られることになります。

第三者からの情報取得制度で勤務先の調査が可能に

民事執行法の改正により、「第三者からの情報取得制度」が新たに導入されました。この制度により、①銀行などの金融機関から債務者の預金情報、②法務局から債務者の不動産情報、③市区町村や日本年金機構から勤務先情報を照会することができるようになりました。ただし、③の勤務先情報の照会は、養育費や婚姻費用などの債権者に限られ、さらに先に財産開示手続が行われていることなど、いくつかの条件が設けられています。

民事執行法改正で財産開示手続きによる調査が簡易化された

裁判所の命令に基づき、債務者に勤務先や財産内容を開示させる「財産開示手続」(民事執行法197条)は以前から存在していましたが、債務者が裁判所に出頭しなかったり開示を拒否しても、罰則がなかったためあまり利用されていませんでした。しかし、令和2年4月1日に施行された改正民事執行法により、正当な理由なく出頭しなかったり、開示を拒んだり、虚偽の陳述をした場合には、これまでの過料ではなく、前科がつく刑事罰(6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金)が科されることになりました(民事執行法213条1項6号)。実際、改正後に財産開示手続の裁判所からの呼び出しに正当な理由なく応じなかったとして、民事執行法違反で罰金を科された事例が複数報じられています。つまり、債権者が債務者の勤務先や財産内容を調べようとすれば、債務者はその開示を拒否することはできません。

給料差し押さえられたら職場を解雇されることはない

給料差し押さえを受けたことで会社に迷惑をかけたとしても、会社が従業員を解雇することは法律上認められていません。法律では、正当な理由がない限り労働者の解雇は認められないとされています。給料差し押さえは正当な理由には基本的に該当しないため、差し押さえを受けたことだけを理由に職場が従業員を解雇することはできません。しかし、借金滞納が職場にバレることで噂が広まり、信用を失うことがあり、その影響が今後の査定にも及ぶ可能性があります。場合によっては、職場で居づらくなり、退職を選ばざるを得ない状況になることも考えられます。

給料差し押さえを受けた場合のデメリット

給料差し押さえを受けた場合、以下のようなデメリットがあります。

  • 原則として、給料の手取り額の4分の1が完済まで差し引かれる
  • ボーナスや退職金も差し押さえの対象となる
  • 職場の人に借金問題が知られてしまう
  • 家族に差し押さえの事実が知られる可能性がある

給料差し押さえの対象は、給料だけでなくボーナスや退職金も含まれます。また、給料差し押さえを受けることで、職場はもちろん、家族や近隣住民にも借金問題が知られるリスクがあります。これからは、給料差し押さえに伴うデメリットを一つ一つ解説していきます。

原則として、給料の手取り額の4分の1が完済まで差し引かれる

給料差し押さえを受けると、債務を完済するまで毎月の給料から一定額が差し引かれます。ただし、毎月全額が差し引かれるわけではありません。原則として差し押さえられる金額は、手取り額の4分の1までです。しかし、手取り月収が44万円以上の場合、受け取る給与額は33万円となり、それ以上の金額は全額差し引かれます。

給料差し押さえは債務者の手取り額に基づいて決まりますが、税金や保険料には影響を与えず、差し押さえ前の金額に基づいて引き続き賦課されます。

ワンポイント解説
【給料差し押さえの額】

  • 手取り給料44万円以下の場合:手取り額の4分の1まで
  • 手取り給料44万円以上の場合:手取り給料額から33万円を差し引いた額

差し押さえの例

  • 手取り給料20万円の場合:差し押さえ5万円、手取り給料15万円
  • 手取り給料50万円の場合:差し押さえ17万円、手取り給料33万円

給料の差し押さえを受けると、毎月の生活が厳しくなる可能性があります。特に他に債務を抱えている場合、返済計画が破綻してしまうこともあります。生活費が足りなくなり窮地に追い込まれる前に、弁護士や司法書士に相談することをお勧めします。

ボーナスや退職金も差し押さえの対象になる

差し押さえの対象は給料だけでなく、ボーナスや退職金にも及びます。ボーナスと給料が両方支給される月には、両方から差し押さえ額が引かれることになります。ボーナスから差し押さえられる額は、給料の差し押さえ額と同じです。

また、退職金も給料に準じて差し押さえの対象となります。退職する予定がすぐにない場合でも、「退職金を受け取る権利」が差し押さえられるため、退職金の見込み額に対して4分の1が差し押さえられます。

退職金まで差し押さえられると、住宅ローンの返済計画や次の会社に移るまでの生活費に困る可能性があります。

家族に差し押さえの事実が知られる可能性がある

差し押さえが行われると、給料だけでなく、他の財産を処分しなければならない場合もあります。代表的な例として、持ち家、土地、自動車などが挙げられます。家族にとって、給料や持ち家などの財産は生活に必要不可欠なものです。そのため、これらの財産を手放すことになった場合、その理由を家族に説明する必要が出てくるでしょう。

職場の人々に借金問題が知られることになる

給料が差し押さえられると、当然、会社に借金を滞納していることが明らかになります。差し押さえ命令が債務者に届く前に、債務者が逃げられないように、会社に通知されます。会社は毎月の給料支給時に差し押さえ金額を計算し、その4分の1を債権者に直接送金し、残りを債務者に支給する義務があります。

給料差し押さえを避けるために債務整理を検討する

返済が難しいからといって、債権者や裁判所からの通知を放置してしまうと、最終的には給料などの財産が差し押さえられることになります。そのため、給料差し押さえを避けるためには、早めに対策を講じておくことが重要です。

可能であれば、請求されている金額を返済することが最善策ですが、支払いが難しい場合は、債務整理を検討するのが賢明です。債務整理とは、借金の減額や免除を目的とした手続きであり、インターネットの広告などでは「国が認めた救済措置」とも呼ばれています。

債務整理を行うことで、基本的には借金問題が解決でき、結果的に給料差し押さえを回避することが可能になります。しかし、債務整理にはデメリットもあり、主に「ブラックリストに載る」といったリスクが伴い、今後の生活に悪影響を与えることもあります。

弁護士や司法書士の事務所では、初回相談が無料で対応されることが多いため、まずは債務整理について相談することを検討してみてください。

差し押さえ前なら「任意整理」が選べる

差し押さえが行われる前であれば、弁護士や司法書士に任意整理の交渉をお願いするのも一つの方法です。任意整理とは、利息や遅延損害金の減額を債権者に認めさせるために行う交渉手続きのことです。任意整理を行うと、通常は借金の元金のみを返済していく形になります。

給料差し押さえの申し立てには複雑な手続きが伴うため、債権者としては「任意整理で返済を受けたい」と考えることが多いと予測されます。任意整理によって返済交渉が成立すれば、申し立てをせずとも債権回収ができる可能性があるため、交渉に応じてもらえる場合が多いです。

しかし、差し押さえ後に任意整理を行っても、既に差し押さえが行われている場合、給料差し押さえを解除することはできません。債権者は、任意整理の交渉に応じなくても完済まで自動的に返済を受けることができるためです。任意整理で差し押さえ解除に応じてもらえるかどうかは、必ずしも保証されませんが、弁護士や司法書士の交渉次第では、対応してもらえる可能性もあります。

「個人再生」や「自己破産」で強制執行を停止できる

差し押さえが開始された後でも、個人再生または自己破産の手続きを行うことで、給料差し押さえを解除することが可能です。個人再生は、借金を1/5~1/10程度に減額するための手続きであり、自己破産は借金を完全に帳消しにする手続きです。いずれも借金の減額・免除が可能で、任意整理よりも減額効果が大きい手続きといえます。

また、個人再生や自己破産は裁判所を通じて行われる手続きで、裁判所から手続き開始の決定が下されると、差し押さえを含む強制執行は中止されます。しかし、個人再生や自己破産は任意整理よりもデメリットが大きい手続きです。例えば、「ブラックリスト入りする」というデメリットに加え、少なくとも30万円程度の費用がかかることや、手続きに数か月の期間が必要となる点などが挙げられます。

その他にもデメリットがありますので、個人再生や自己破産を考えている場合は、弁護士などの専門家に相談し、手続きを進めるべきかどうかを慎重に判断することが重要です。

転職しても、基本的に給料差し押さえは続く

給料差し押さえは、債務が完済されるまで続くという前提があります。そのため、差し押さえ中に転職をした場合でも、債務が完済されていなければ新しい職場でも給料が差し押さえられる可能性があります。「転職すれば職場がわからなくなるから差し押さえを避けられる」と考えるかもしれませんが、債務が残っている限り、給料差し押さえは続くので注意が必要です。ただし、退職金などで債務を完済できれば、転職先での給料差し押さえは免れることになります。

偽装退職は効果がないと認識しておくべき

給料差し押さえを回避するための「偽装退職」は通用しないと認識しておきましょう。実際、最高裁判所の判例では、給料差し押さえを避けるために、会社と共謀して一度退職した後、給料差し押さえを止めた後に再度同じ会社に就職した事例があります。この事例では、再雇用後の給料にも従来の差し押さえ命令が影響を与えると判断されています。

裁判所の判決によっては、罰金などの罰則が科される可能性もあるため、給料差し押さえを回避する目的での退職は避けるべきです。

給与差押えのリスクを避けるため、早めの債務整理を

債権者が債務者の現在の勤務先を知らなくても、上記のように債権者は勤務先を調べることができます。いつまでも借金(債務)を放置するよりも、任意整理や自己破産などの債務整理を通じて、借金問題を解決する方が賢明です。

まとめ

債権者が現職場を知らない場合でも、財産開示手続や第三者からの情報取得手続きを通じて、職場の情報を入手することができます。仮に「契約後に転職して新しい職場を申告していない」というケースでも、職場情報を完全に隠すことはできず、給料差し押さえからは基本的に逃れることができません。

そのため、債権者や裁判所からの通知を無視すると、最終的には給料や退職金、ボーナスなどの財産が差し押さえられることになります。もし金銭的に余裕がある場合は、請求額を一括で支払うのが最適ですが、それが難しい場合は、弁護士や司法書士に相談してみることをお勧めします。債務整理を行うことで、給料差し押さえを停止させ、原則的に借金問題を解決することができます。

給料差し押さえに関するQ&A

ここでは、給料差し押さえに関するよくある質問とその回答をまとめて説明します。

職場に給料差し押さえを拒否してもらうことは可能ですか?

給料差し押さえは裁判所の命令に基づいて行われるため、職場が差し押さえを拒否することは基本的にできません。そのため、給料差し押さえが行われた場合、職場の都合で差し押さえ金額が免除されることはありません。

給料を差し押さえられた場合、転職すれば逃れられるのでしょうか?

転職してしまえば、差し押さえが行われる前に債権者は新しい勤務先を特定できないかもしれません。しかし、退職金が差し押さえの対象になったり、財産開示制度により勤務先の情報を提出しなければならない場合もあるため、完全に逃げ切ることはできないと言えます。

裁判所から給料差し押さえの通知が来ましたが、怖くて連絡できません。どう対処すればよいですか?

まずは弁護士や司法書士に相談することを検討しましょう。差し押さえの通達を放置すると、最終的には強制執行が行われます。弁護士や司法書士に相談することで、強制執行の中止が期待でき、その結果、差し押さえを止めることが可能になる場合があります。