自己破産は生活保護受給中でも可能。手続きの流れと破産後の生活

生活保護受給中に抱えてしまった借金の返済に苦しんでいる場合でも、自己破産の手続きは可能です。
生活保護と自己破産は目的が異なる制度であるため、両立させながら生活の再建を目指せます。
この記事では、生活保護受給者が自己破産をする際の具体的な手続きの流れ、費用に関する支援制度、そして自己破産後の生活への影響について詳しく解説します。

生活保護を受給していても自己破産は認められる

目次

結論として、生活保護を受給していることを理由に自己破産が認められなくなることはありません。
自己破産は、返済不能な借金を抱えた人の経済的更生を目的とする債務整理手続きの一つです。
生活保護受給者は収入が最低生活費を下回る状態であるため、返済能力がないことは明らかであり、自己破産の要件を満たしやすいと言えます。
そのため、裁判所も手続きを比較的スムーズに進める傾向にあります。

自己破産と生活保護の制度は目的が異なるため両立可能

自己破産と生活保護は、それぞれ目的が異なる国の制度であるため、同時に利用することが認められています。
自己破産制度の目的は、支払い不能に陥った人の借金返済義務を免除し、経済的な立ち直りの機会を与えることです。
一方、生活保護制度は、資産や能力を活用してもなお生活に困窮する人に対し、国が健康で文化的な最低限度の暮らしを保障することを目的としています。
このように、両制度の目的は相反するものではなく、むしろ経済的に困窮した人の生活再建を支えるという点で補完し合う関係にあります。
そのため、両方の手続きを同時に進めることも可能です。

生活保護受給者は自己破産にかかる費用が免除される可能性がある

自己破産には弁護士費用や裁判所に納める予納金といった費用が発生しますが、生活保護受給者の場合、これらの費用負担が実質的に免除される可能性があります。
法テラスの民事法律扶助制度を利用すれば、弁護士費用の立て替えや返済免除を受けられます。
また、裁判所に納める費用についても免除される場合があり、金銭的な負担なく、事実上無料で手続きを進められるケースも少なくありません。

法テラスの民事法律扶助制度で弁護士費用が立て替えられる

法テラス(日本司法支援センター)は、経済的に余裕のない人でも法的な支援を受けられるように設立された公的な機関です。
法テラスが設けている民事法律扶助制度では、収入や資産が一定基準以下の方を対象に、無料の法律相談や弁護士費用の立て替えを行っています。
生活保護受給者はこの資力基準を満たすため、審査に通る可能性が非常に高いです。
立て替えられた弁護士費用は、生活保護を受給している間は返済が猶予され、自己破産手続きが無事に終わり、その後も生活保護の受給が継続している場合には、最終的に返済自体が免除されることがほとんどです。

裁判所に納める予納金も免除・猶予される場合がある

自己破産を申し立てる際は、弁護士費用とは別に、裁判手続きに必要な実費(予納金)を裁判所に納付します。
この予納金は、官報への掲載費用や債権者への書類郵送料などに充てられ、手続きの種類によって金額が異なりますが、おおむね1万円から3万円程度です。
生活保護を受給しており、この予納金の支払いが難しい場合、「訴訟上の救助」という制度の利用を裁判所に申し立てることが可能です。
この申し立てが認められれば、予納金の支払いを一時的に猶予してもらえたり、全額免除されたりすることがあります。
法テラスの立て替え制度では、この予納金も対象となります。

生活保護受給者が自己破産する際の手続き5ステップ

生活保護受給者が自己破産を進める場合の一般的な手順を解説します。
ここでは弁護士費用などの立て替え免除制度を利用できる法テラスを活用する流れを前提とします。
弁護士への相談から裁判所による免責許可決定までにかかる期間は個別の事情にもよりますが半年から1年ほどが目安です。
具体的な手順を把握することで計画的に手続きを進められます。

ステップ1:法テラスで弁護士・司法書士に相談する

自己破産を考えたら、最初のステップとしてお住まいの地域にある法テラスへ連絡し、無料法律相談の予約を取ります。
法テラスは全国各地に拠点があり、例えば大阪にお住まいであれば法テラス大阪などで相談ができます。
相談時には、借入先や借金額、収入状況などを正直に専門家へ伝えることが重要です。
弁護士や司法書士が状況を詳しく聞き取り、自己破産が最善の解決策であるかを判断し、今後の手続きや費用について具体的に説明してくれます。
この段階で不安な点はすべて質問し、解消しておくのが良いでしょう。

ステップ2:民事法律扶助制度の利用を申し込む

専門家との相談を経て、自己破産手続きを依頼する方針が固まったら、法テラスの民事法律扶助制度の利用を申請します。
申請にあたっては、申込書のほかに、資力を証明するための書類や住民票などの必要書類を提出しなければなりません。
生活保護受給者の場合、資力証明書類として市区町村の役所で発行される「生活保護受給証明書」を提出します。
この証明書があれば、収入や資産に関する他の細かな書類の提出が省略されることが多く、審査が円滑に進みます。
その他、事案に応じて必要な書類は専門家から指示があります。

ステップ3:専門家と契約し自己破産手続きを依頼する

法テラスの審査に通り、援助開始が決定されると、担当の弁護士や司法書士と正式に委任契約を締結します。
この契約に基づき、専門家は自己破産手続きの代理人として活動を開始します。
契約締結後、専門家は直ちにすべての債権者に対して「受任通知」という書面を発送します。
この通知が債権者に届いた時点で、貸金業法により、本人に対する直接の取り立てや督促はすべて停止します。
そのため、手続き中は返済のプレッシャーから解放され、安心して生活の再建に専念することが可能です。

ステップ4:裁判所へ自己破産の申し立てを行う

弁護士は債権調査や書類収集を行い、自己破産の申立書を作成して管轄の地方裁判所へ提出します。
申立人は、弁護士の指示に従って、預金通帳のコピーや家計の状況がわかる資料などを準備する必要があります。
価値のある車などの財産を所有している場合は処分の対象となりますが、生活保護受給者の場合は高価な財産がないことがほとんどで、破産管財人を選任せず手続き費用が安い「同時廃止事件」として扱われるのが一般的です。
申し立て後、裁判官が免責を許可するかどうかを判断するために、裁判所での面談(免責審尋)が行われることもあります。

ステップ5:免責許可決定により借金の支払いが免除される

裁判所での審理の結果、借金の理由や財産状況に特に問題がないと判断されれば、裁判所から「免責許可決定」が出されます。
この決定が官報に公告され、その後約1ヶ月間、債権者からの不服申し立てがなければ正式に確定します。
免責許可決定が確定することにより、税金や養育費といった一部の非免責債権を除いて、すべての借金の支払い義務が法的に免除されます。
これにより、債権者は返済を請求できなくなり、借金問題から完全に解放され、経済的な再スタートを切ることが可能になります。

自己破産と生活保護、どちらの手続きを先に進めるべきか

自己破産と生活保護の申請を検討している場合、どちらを先に行うべきかという順番に法的な決まりはありません。
個人の状況によって最適な進め方は異なります。
例えば、無職で日々の生活費にも困窮しているのか、あるいは債権者からの督促や給与の差し押さえで生活が圧迫されているのかなど、自身の状況で最も緊急性の高い問題に対応する形で判断します。

先に自己破産手続きを進めるケース

債権者からの厳しい督促に悩まされている場合や、すでに給与や預金口座の差し押さえといった強制執行を受けている、あるいはその恐れがある状況では、自己破産の手続きを優先するのが一般的です。
弁護士に自己破産を依頼し、債権者に受任通知が送付された時点で、取り立てや返済の要求は止まります。
これにより差し押さえなどの法的手続きも防げるため、まずは精神的・経済的な安定を確保することが可能になります。
まだ就労収入があるものの、返済によって生活が成り立たなくなっている場合も、先に自己破産に着手することが多いです。

先に生活保護の受給申請をするケース

借金の問題以前に、食費や家賃の支払いもままならず、日々の生活を維持することが困難な状況にある場合は、生活保護の申請を最優先すべきです。
手元にお金が全くない状態では、自己破産について弁護士に相談したり、手続きを進めたりする余裕もありません。
まずは居住地の福祉事務所に相談し、生活保護を申請して、最低限の生活基盤を確保することが重要です。
生活保護の受給が始まり、経済的に落ち着いてから、法テラスなどを利用して自己破産の手続きを進めるのが現実的な流れとなります。

自己破産が生活保護の受給に与える影響

自己破産をした後に、現在受給している生活保護の打ち切りや減額といった影響が出るのではないかと不安に思うかもしれませんが、そのような心配は基本的に不要です。
自己破産を理由として、生活保護の受給資格がなくなったり、支給額が変更されたりすることはありません。
自己破産は、離婚などと同様に個人の法的な手続きの一つであり、生活保護の受給要件とは別の問題として扱われます。

自己破産を理由に生活保護が打ち切られることはない

自己破産をしたからといって、生活保護の支給が打ち切られることはありません。
生活保護が支給されるかどうかの判断基準は、世帯の収入や資産が国が定める最低生活費を下回っているかどうかという点のみであり、自己破産の経歴は全く関係しないからです。
むしろ、自己破産によって借金の返済義務がなくなることは、生活保護費を借金返済という不適切な用途に使うことなく、本来の目的である生活の維持のために活用できる状態になることを意味します。
これは生活保護制度が目指す自立助長にも合致するため、福祉事務所が自己破産を問題視することはないのです。

自己破産によって生活保護費が減額される心配はない

自己破産の手続きをしても、支給される生活保護費の金額が減ることはありません。
生活保護費の支給額は、国が定めた最低生活費の基準から、世帯の収入認定額を差し引いて機械的に算出されます。
自己破産は借金の支払い義務を免除する手続きであって、収入を増やすものではないため、この計算式に影響を与えることは一切ないのです。
借金がなくなったからといって生活に必要な費用が少なくなるわけではないので、生活保護費の金額は変わらないと理解しておきましょう。

生活保護受給者が自己破産する前に知っておきたい注意点

生活保護受給中の自己破産はメリットが多いですが、手続きを開始する前に理解しておくべき注意点もいくつかあります。
これらは自己破産という手続きに共通するデメリットでもあり、特に保証人や連帯保証人には直接的な影響が及びます。
もし親などが借金の保証人になっている場合は、その人に返済の請求がいくことになるため、事前に事情を説明し、理解を得ておくことが求められます。

生活保護費を借金返済に充てることは原則禁止

生活保護費は、憲法で保障された最低限度の生活を維持するために支給されるものであり、借金の返済に充当することは制度の趣旨に反するため、原則として禁止されています。
もしケースワーカーに借金返済の事実が知られると、生活費以外の目的で保護費を使用したとして指導を受け、場合によっては不正受給とみなされて返還を求められる可能性もあります。
借金がある場合は、生活保護費から返済を続けることはできないため、自己破産などの法的な手続きによって問題を解決するのが適切な対応です。

専門家に依頼するまで借金の督促は止まらない

自己破産を決意しただけでは、債権者からの電話や郵便物による督促が止まることはありません。
法的に督促を停止させるには、弁護士や司法書士に正式に依頼し、代理人として「受任通知」を債権者に送付してもらう必要があります。
相談をためらっている間に、給与や預金口座が差し押さえられるリスクも存在します。
また、家賃滞納も借金の一種であり、放置すれば最終的に強制退去に至る可能性があります。
家賃のように生活の基盤を揺るがす支払いが滞っている場合は、一日も早く専門家に相談すべきです。

ケースワーカーへの事前報告で手続きがスムーズに進む

自己破産を検討していることは、担当のケースワーカーに隠さず、事前に報告しておく方が円滑に手続きを進められます。
自己破産を申し立てると、裁判所から福祉事務所へ資産状況などについて照会がされることがあるため、いずれにせよ知られる可能性は高いです。
事前に相談しておけば、ケースワーカーから法テラスを紹介してもらえたり、手続きに必要な生活保護受給証明書の発行に協力してもらえたりと、連携が取りやすくなるメリットがあります。
また、借金を返済せずに法的手続きで解決しようとする姿勢は、誠実な対応として理解を得られやすいです。

不正受給で発生した返還金は免責の対象にならない

自己破産をしても、支払い義務がなくならない借金(非免責債権)があります。
例えば、収入があることを隠して生活保護費を不正受給した場合、その返還金や徴収金は「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償」などと見なされ、自己破産後も支払い義務が残ります。
また、借金の主な原因がギャンブルや浪費である場合、それは「免責不許可事由」にあたり、原則として借金の免除が認められない可能性があります。
ただし、裁判官の判断で免責が許可される「裁量免責」という制度もあるため、正直に事情を専門家に話すことが重要です。

自己破産後に新たな借り入れはできない

自己破産をすると、その情報が信用情報機関に事故情報として登録されます。
いわゆるブラックリストに載った状態となり、この情報が削除されるまでの5年から10年程度は、新たな借り入れをすることが極めて困難になります。
具体的には、クレジットカードの作成や利用、銀行や消費者金融からのカードローン、自動車や住宅といった各種ローンを組むことはできません。
これは再び借金に頼る生活に戻らないようにするための措置であり、収入の範囲内で計画的に生活する習慣を身につけるための期間と考えるべきです。

まとめ

生活保護受給中であっても、借金問題を解決するために自己破産を選択することは可能です。
生活保護と自己破産は両立できる制度であり、法テラスの民事法律扶助制度を活用すれば、費用の心配をせずに手続きを進められます。
自己破産によって生活保護の受給資格や受給額に悪影響が及ぶことはなく、むしろ借金問題を清算し、生活の再建に専念できるという利点があります。
保証人への影響やケースワーカーへの報告といった注意点を踏まえた上で、まずは弁護士などの専門家に相談することが、問題解決への第一歩となります。